この記事でわかること
- 練習テーマはどのようなものを設定すれば良いのか?(設定例)
- 自分で考えて練習テーマを設定するためにはどうしたら良いのか?
- 練習テーマを設定する際の注意点は?
この記事では上記の疑問を解決していきます。
「練習テーマの設定」は、質の高いサッカー指導をおこなうにあたり不可欠です。
いざトレーニング指導を始めようと思っても、「何をテーマに練習すればよいのか」がわからなければ、「どんな練習をすればよいのか」についても決めることができません。
初心者や未経験のコーチの方の場合、練習テーマが決められないもしくは誤ったテーマを設定してしまうということが予想されますが、ちょっとしたコツや知識を得ることでこの問題を解決することが可能です。
ぜひ参考にして、練習の質を高めてください。
練習テーマはどのようなものを設定すれば良いのか?(設定例)
ここでは、私が実際に設定している練習テーマをご紹介させていただきますので、参考にしてみてください。
注意
レベルや目標などはチームにより様々ですので、そのまま適用してもうまくいくとは限りません。
必ず自分のチームの環境や状況などを考慮してアレンジしてください。
練習テーマの設定例
練習テーマの設定例
4月:前年度の復習
5月:ポゼッション
6月~7月中旬:ビルドアップ
7月中旬~8月中旬:フィニッシュ(個人戦術)
8月中旬~10月中旬:フィニッシュ(グループ戦術)
10月中旬~12月:ディフェンス(個人戦術)
1月:ディフェンス(グループ戦術)
2月~3月:総復習&遅れの調整期間
4月:前年度の復習
これは練習テーマと言えるものではありませんが、設けるようにしています。
前年度を終えた時点でどのようなチーム状況・レベルなのか、どのような長所・短所があるチームなのかを新メンバーも含めたチーム全員で再確認したうえでスタートしたいという考えがあるからです。
また、チーム事情により新メンバーが加入するのが5月近くになることも多いため、全員揃ってから個別の練習テーマに移りたいというのも理由の1つです。
ただし、前年度のうちにトレーニング内容の復習が終えられているようであれば、別の練習テーマを設定しても問題ないでしょう。
5月:ポゼッション
ボールを持っていなければゴールすることができませんので、ポゼッションを改善することは攻撃面を改善することであるということができます。
しかしその一方で、ボールを持っていればゴールを奪われることもないことから、ポゼッションを改善することは守備を改善することでもあると言うことができます。
私はポゼッションを「攻守両面の改善を図れるもの」と捉えて重視しているため、最初のトレーニングテーマに持ってきています。
また、ただ重要だからという理由だけではなく、季節的に動きやすく運動量を求められる練習テーマに合っているほか、パスの出し手と受け手のコミュニケーションが取れなければうまくいかないトレーニングなので、新メンバーと既存メンバーを早い時期に自然に打ち解けさせたいという狙いもあります。
6月~7月中旬:ビルドアップ
ポゼッションが改善されたら、次にビルドアップのトレーニングに移っていきます。
ポゼッションとビルドアップの違いや定義づけは指導者やチームによって異なるのですが、私は次のような意識で指導に臨んでいます。
ポゼッションとビルドアップの違い・定義づけ
ポゼッション:ボールを失わずに保持しながらプレーする事(攻撃方向なし)。いわばビルドアップの前段階。
ビルドアップ:ボールを失わずに保持しながらプレーする事を狙いとするのはポゼッションと同じだが、攻撃方向がある中で攻撃の優先順位を常に意識してプレーし、ボール保持が目的でなくゴールを奪う為の手段となるようにする。
つまり、ただ単に「ボールを失わなければよい」というところから、「ゴールを奪うためにボールを動かす」ということにシフトしていくのです。
可能であればわざわざポゼッションとビルドアップのトレーニングを分けることなく、最初から攻撃方向を意識したビルドアップのトレーニングに臨みたいのですが、そうすると子どもたちが前に急ぎすぎてしまうことが多々あるため、私はあえてこの方法をとっています。
ポゼッション同様ビルドアップの練習でも運動量が必要になるため、暑さが本格化する7月中旬頃までにある程度相手ゴール前まで運べるようにしておきたいと考えています。
7月中旬~8月中旬:フィニッシュ(個人戦術)
ビルドアップが改善されて相手ゴール前までボールを運べるようになってきたら、今度はその先のゴールを決めきるところの改善をしていきます。
ゴールを奪う能力を上げるというと、ボールコントロールやスピード、ボディーバランスなどを向上させるということが頭に浮かびますが、それだけでは足りません。
パスを受けるための動き方やタイミング、ラストパスを出すときの狙いなども同時にトレーニングしていきます。
夏真っ盛りの非常に暑い時期ですが、ゴールを奪うためのトレーニングであれば選手は楽しんで前向きに取り組んでくれることが多いため、この時期にフィニッシュのトレーニングを組み込んでいます。
まずはパスの出し手と受け手をそれぞれ改善させ、さらにその両者の関係性を基礎として構築したうえで、その先のグループ戦術に繋げていきます。
8月中旬~10月中旬:フィニッシュ(グループ戦術)
「フィニッシュ(個人戦術)」がパスの出し手と受け手という2者の関係性止まりであったのに対し、「フィニッシュ(グループ戦術)」ではパスの出し手・受け手どちらか(あるいは出し手・受け手の両方)が複数人での関係性を構築することでよりゴールの確率を高めることを目指します。
例えば、
「サイドからフリーでクロスを上げるためにはウイングとサイドバックがどのように連携すればよいのか」
「クロスボールに対し複数の選手がゴール前に入る際、どうすれば全員が効果的なポジショニングをとれるのか」
といったことはグループ戦術と位置付けられるため、それらを個別にトレーニングしていきます。
そのうえで、最終的にはそれらを結びつける(同時におこなう)ことができるようになることがこのテーマの目標となります。
このテーマに取り組み始める頃はまだ気温が高いですが、終わり頃にはだいぶ涼しくなっています。
動きやすい気候になったことに加えて戦術理解も進んでおり、よりダイナミックな動きでフィニッシュまで持っていけるようになっているはずです。
10月中旬~12月:ディフェンス(個人戦術)
ここまで積み重ねてきたトレーニングで、
「ボールを保持する」
「前にボールを運ぶ」
「ゴールを奪う」
という攻撃面のプレーはだいぶ改善されているはずです。
しかしそれは練習の成果である一方、守備の練習をしていないことも一因となっていることでしょう。
そこでここからは、改善された攻撃を封じるためにディフェンスの練習に取り組んでいきます。
フィニッシュの時と同様にまずは個人戦術を習得を目指し、1対1の対応・マークの仕方・ポジショニングなどの基礎を固めましょう。
ディフェンスは自分主導でなく相手に合わせて動くシーンが多く、ダッシュ・ストップの繰り返しにもなるため、体力的に負担の少ない動きやすい気候のシーズンを練習時季として選んでいます。
1月:ディフェンス(グループ戦術)
「ディフェンス(グループ戦術)」では、複数の選手がどう関わればより強固な守備ができるのかということを習得します。
具体例としては、
「チャレンジ&カバー」
「4バックのスライド」
「ファーストディフェンダーがワンサイドカットして次の選手がパスカットを狙う」
などといったプレーが挙げられます。
寒さが本格化している時期なので、動き続けることが求められる練習テーマをおこなうには適していると言えます。
ただしその分、ウォームアップが不足していたりすると怪我につながりやすいとも言えますので、その点には気を付けましょう。
2月~3月:総復習&遅れの調整期間
選手やチームによって得意・不得意のプレーは様々ですし、天候不良によってあまり活動できなかった時期が発生したりしますので、2月~3月は遅れの調整期間とします。
もし遅れがなかったりどのトレーニングテーマについても大きな問題がないという場合には、総復習やさらに踏み込んだ内容のトレーニングをおこなう期間に充てると良いでしょう。
自分で考えて練習テーマを設定するためにはどうしたら良いのか?
上記「練習テーマはどのようなものを設定すれば良いのか?(設定例)」を読んでみて、
「より自分のチームの状況に合った練習テーマを設定したい」
と考えた方もいらっしゃることでしょう。
そんな方のために、「自分で考えて練習テーマを設定するために意識すべきこと」を紹介いたします。
1.「サッカーの原理・原則」を意識する
「サッカーの原理・原則」というと難しく感じますね。
平たく言うと、「勝利するためにゴールを奪う・ゴールを守る(ことを目指す)」ということが「原理」で、「ゴールを奪う・ゴールを守るためにどのような優先順位でプレーするのか」というのが「原則」です。
これを忘れてしまうと、「ボールコントロールはうまくなったけど・足は速くなったけどサッカーはうまくなっていない」ということになりかねません。
プレーの原則・優先順位をまとめておくと以下のようになります。
攻撃の優先順位
1.ゴールを目指す・シュートを狙う
2.ラストパスを狙う
3.前方にプレーする
4.横にプレーする
5.後方にプレーする
守備の優先順位
1.ボールを奪う
2.プレッシャーをかけて蹴らせて奪う
3.ボールを後ろに下げさせる
4.サイドに追いやる
5.攻撃を遅らせる
「この練習をすることでゴールを奪う可能性が上がるのか」
「この練習をすることで失点を防ぐ可能性が上がるのか」
そうしたことを頭に入れて練習テーマを設定すれば、「サッカーの練習をする」という当たり前のようでとても重要な部分が抜け落ちてしまっていないかを確認することができます。
2.プレーエリアを意識する
プレーの優先順位が理解できると、プレーエリアによってやるべきプレーやおこなう頻度が高いプレーが変わってくることがわかります。
プレーエリアの見方としては、フィールドを3分割し、
・味方ゴール前(ディフェンディングサード)
・中盤(ミドルサード)
・相手ゴール前(アタッキングサード・ファイナルサード)
という分類をするのが一般的です。
攻守それぞれについてどの場面のどの場所のプレーに課題があるのか考えて、練習テーマの設定に役立てましょう。
また、この3つのエリアについて、
・中央
・右サイド
・左サイド
とさらに3分割し、より絞り込んだ練習テーマを設定しても良いでしょう。
3.「サッカーの4局面」を意識する
サッカーを見ていると以下の4つの局面があることがわかります。
サッカーの4局面
・攻撃
・守備
・攻撃から守備への切り替え(ネガティブトランジション)
・守備から攻撃への切り替え(ポジティブトランジション)
この4局面についても、トレーニングのし忘れや過度な偏りがないかチェックしましょう。
4.「1~3」を意識したうえで、チームの課題・方針・哲学と照らし合わせる
上記「1~3」を頭に入れれば、指導しているチームに何が必要かが徐々に見えてくるはずです。
例えば、
「相手ゴール前までは行けるけどシュートが入らない」
「味方ゴール前からなかなか前に進めない」
「ボールを奪われた後の戻りが遅い」
といったようなシーンが思い浮かぶようであれば、練習テーマは決まったようなものです。
また、目の前で起きている現象だけでなく、どのような選手・チームに育てたいかという観点から考えても良いでしょう。
「よりボールを保持できる選手・チームにしたい」というのと「多少ボールを失うことが増えてもいいから攻守の切り替えを素早くおこない、1対1で戦える選手・チームにしたい」というのではトレーニングテーマは全く違ってきます。
練習テーマを設定する際の注意点は?
「いろいろ考えてトレーニングテーマを設定したのに、思ったように練習の成果が上がらない・・・」
そんな時にチェックすべき注意点をまとめました。
1.テーマとキーファクターを混同しない
トレーニングの「テーマ」と「キーファクター」を混同してしまう指導者は意外と多いです。
「今月のトレーニングテーマはパスの質の改善だ!」などとしてしまっては、どの場面で何のために出すパスなのかわかりません。
「パスの質」のような1つのプレーは、テーマとしたプレーを改善させるための1つの要因、つまり「キーファクター」です。
「今月のトレーニングテーマはポゼッションだから、その改善のためのキーファクターの1つはパスの質だな」といったように設定するのが正しいやり方です。
トレーニングテーマはより広い事象を指しますので、キーファクターと混同しないよう注意しましょう。
2.個人からグループへと発展させていく
トレーニングは簡単なものから難しいものへと進んでいくのが鉄則です。
個人単位でのトレーニングを飛ばしてグループ単位やチーム単位のトレーニングをおこなっても効果は望めません。
自分がどのようにポジショニングしたら良いかすらわからない子どもたちに向かって、「今日からディフェンスラインのコントロールを練習する!」と言っても理解は進まないでしょう。
一足飛びに成果を得ることを期待せず、「急がば回れ」でできることを増やしていきましょう。
3.複数テーマを入れない(ただし対テーマは必要によって言及する)
トレーニングテーマを複数入れることは、時間短縮になるように見えてかえって何も見につかない無駄な時間を積み重ねてしまう結果になりかねません。
「せっかくゴール前まで運ぶビルドアップの練習をしているのだから、ついでにフィニッシュも一緒に練習してしまおう」という欲は捨て、1つずつ確実に技術・戦術を向上させていきましょう。
しかし例外的に、「対テーマ」を設定することは時として練習効果をより高めるのに役立ちます。
「対テーマ」とは、メインとなるトレーニングテーマを改善させるために「この部分ができている選手を相手にするとより良いトレーニングとなる」と考えて設定するものです。
例えば、「フィニッシュ」を改善したいのに何の工夫をしなくてもゴールが奪えてしまうようでは練習になりませんよね?
そこで対テーマとして「ディフェンス」を設定します。
対テーマはメインテーマではないため、そこまで細かい要求をすることはしません。
簡単にゴールに向かわせないように、「相手とゴールの間に入る」「ボールを奪うことよりも抜かれずについていくことを重視する」程度の「対キーファクター」を設定するだけでも、トレーニング効果が目に見えて向上することがあります。
このような複数テーマの設定の仕方であれば、積極的に試してみる価値はあるでしょう。
4.計画に柔軟性や余裕を持つ
考え抜いて作成した練習計画であるほど、その予定を変更するには勇気や決断力が必要となるでしょう。
しかし、事前に想定していた通りにトレーニングが進んでいくことなどまずあり得ません。
「意外とみんなできないもんだな」
「時間をかけてじっくり取り組むつもりだったけど、案外飲み込みが速かったな」
「梅雨の時期はグラウンドが使えない日が多いと思っていたけど、雨で中止になる日は少なかったな」
「風邪が流行って2週間も学級閉鎖になるとは思わなかった」
等々、様々な事情で計画の進み具合は変わるものです。
意固地に計画表通りに進めるのでなく、課題が解決できたテーマは早めに切り上げ、うまくいかないテーマはその分時間をかけてじっくりと取り組めるようにすると良いでしょう。
また、あまりキツキツにスケジュールを組んでしまうと想定外の事態が発生した際に対応できなくなりますので、必ずある程度のゆとりを持たせましょう。
まとめ
この記事のまとめ
-
練習テーマの設定例:
4月:前年度の復習
5月:ポゼッション
6月~7月中旬:ビルドアップ
7月中旬~8月中旬:フィニッシュ(個人戦術)
8月中旬~10月中旬:フィニッシュ(グループ戦術)
10月中旬~12月:ディフェンス(個人戦術)
1月:ディフェンス(グループ戦術)
2月~3月:総復習&遅れの調整期間 - 自分で考えて練習テーマを設定するためには、以下の4点を意識する必要がある。
1.「サッカーの原理・原則」を意識する
2. プレーエリアを意識する
3.「サッカーの4局面」を意識する
4.「1~3」を意識したうえで、チームの課題・方針・哲学と照らし合わせる
- 練習テーマを設定する際の注意点は、以下の4点である。
1.テーマとキーファクターを混同しない
2.個人からグループへと発展させていく
3.複数テーマを入れない(ただし対テーマは必要によって言及する)
4.計画に柔軟性や余裕を持つ
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は練習テーマの設定方法についてご紹介しましたが、年間計画を作成したうえでM-T-M方式で課題を消化していけると理想的だと思います。
しかし、毎週末に定期的に試合があるというチームばかりではないですし、チームのレベルによっては試合を見るたびに「すべてが足りない」「課題だらけだ」となってしまう可能性もあります。
また、指導者の分析力が足りなければ適切なトレーニングテーマを抽出することもできないでしょう。
そんな場合、気づいたものから思いつくままトレーニングしていってしまうと、結局やり残しや偏りであったり、1週ごとに攻撃と守備の練習をとっかえひっかえやって選手が混乱してしまうということになりかねないため、あらかじめ長期の計画を立てておくことには大きなメリットがあると感じます。
ぜひ今回の記事を参考に、チームや選手の長所を伸ばし、課題を改善するための計画を立ててみてください。
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