この記事でわかること
- 「簡易5レーン理論」とは何か?
- 「簡易5レーン理論」のルール
- 「簡易5レーン理論」の利点
- サポートする選手の役割
この記事では上記について解説していきます。
「個人技に頼ることなく、チームでポゼッションしながら攻められるようにしたい」
「パスサッカーを身に付けさせたい」
そんな指導者も多いことでしょう。
しかし、何となくボールを前に蹴って相手ボールにしてしまったり、必要のないところでドリブルを仕掛けて奪われてしまったりするシーンを見かけ、「もっと繋げ!」と声を荒らげている監督・コーチの姿もよく見かけます。
「毎日たくさんパス練習をしているのに、なんでうまくいかないんだろう・・・?」
そんな悩める指導者が選手たちに身に付けさせるべきものは、技術でなく戦術かもしれません。
この記事で「簡易5レーン理論」を学んで、ぜひビルドアップを改善させてください!
もくじ
「簡易5レーン理論」とは何か?
「5レーン理論」は、「ポジショニングの約束事を明確にし、ビルドアップを円滑におこなうための理論」ということができます。
習得できれば絶大な効果を発揮しますが、小学生や中学生には高度すぎて導入するのが難しいという現実もあります。
その結果として、
「試合で使えるレベルになるまで5レーン理論のトレーニングを徹底して行う」
または
「全く5レーン理論の練習に取り組まない」
という、二者択一になりがちです。
育成年代では1つのことにかかりきりになってはいられませんが、5レーン理論には様々なチームやプレーシーンで役立てられる原理・原則が含まれているので、全く触れないというのも大変もったいない話です。
そこで私が考えたのが、本家には当然劣るものの、小学生でもすぐ覚えられる簡単なルールを設定するだけでビルドアップが劇的に改善する「簡易5レーン理論」です。
「5レーン理論」のルール
まず、本家「5レーン理論」のルールを確認しておきましょう。
「5レーン理論」はピッチを縦に5分割したうえで、
①1列前(後ろ)の選手と同じレーンにいてはならない
②2列前(後ろ)の選手と同じレーンにいなければならない
③1列前(後ろ)の選手は隣のレーンにいることが望ましい
という3つのルールを選手に課しています。
各ルールを図で示すと以下の通りとなります。
良い例
「①1列前(後ろ)の選手と同じレーンにいてはならない」のNG例
「②2列前(後ろ)の選手と同じレーンにいなければならない」のNG例
「③1列前(後ろ)の選手は隣のレーンにいることが望ましい」のNG例
いずれも整理されたルールで、共通理解がしやすくなっているのがわかります。
しかし一方で、実際にやってみると分かりますが、このルールを小学生や中学生に覚えさせるとなると想像以上の労力が必要になります。
その点、「簡易5レーン理論」のルールは単純明快です。
「簡易5レーン理論」のルール
「簡易5レーン理論」のルール
①ボール保持者の斜め前と斜め後ろにサポートに入る
②ボール保持者の斜め前と斜め後ろにサポートに入った選手は縦に同列に並ぶ
「簡易5レーン理論」のルールは、このたった2つです。
注意
※ここでいう「前」「後ろ」というのは、相手ゴール方向に対してです。
相手ゴールに近い方が「前」、遠い方が「後ろ」となり、ボール保持者の体の向きに対しての「前」「後ろ」ではありませんので、ご注意ください。
良い例
上記2つのルールが守れていると以下の状況になります。
先ほど挙げた本家5レーン理論の良い例と同じポジショニングですね。
この後は、ボールの動きに合わせてルールにのっとったサポートを連続しておこなっていきます。
連続したサポートの例
※実線はボールの動き、点線は選手の動きです。
※緑の〇は移動後のポジションです。
例①:斜めパスを入れた後、ボール保持者を追い越して斜め前に入る
最初のボール保持者が斜め前の選手にパスをした後、次のボール保持者の斜め前にサポートがないのでそこへ入ります。
また、その動きにより次のボール保持者の斜め後ろにサポートがなくなるため、そこに入る選手も必要になります。
例②:斜めパスを入れた後、そのまま後ろに残る
ボール保持者が斜め前の選手にパスをした後には「簡易5レーン理論」のルールが2つとも満たされている状態になるため、パスを出した後に動かず留まるという判断が必要になります。
例③:バックパスを入れた後、ボール保持者の斜め後ろのサポートに入る
最初のボール保持者が斜め後方の選手にパスを出すと、次のボール保持者の斜め後方のサポートがなくなるため、パスを出したら素早くそこに移動する必要があります。
また、その動きによって斜め前方のサポートがなくなるため、そこに入る選手も必要になります。
この動きを続ける中で、サポートに関わらない選手も当然出てきます。
そうした選手は、相手ディフェンスの裏をとる・幅をとる・空いているスペースに顔を出すといった動きを入れていくことで、より相手にとって守りにくい状況を作っていきましょう。
良い例が分かったところで、それぞれのルールのNG例がどのようなものなのかも確認していきます。
「①ボール保持者の斜め前と斜め後ろにサポートに入る」のNG例
※赤の選手は相手チームの選手です。
NG例①:サポートに入る選手が二人ともボール保持者の斜め前に入ってしまう
サポートの2人が両方ともボール保持者の前方にポジションをとってしまうと、相手にプレッシャーをかけられた場合に預けどころがなく、ボールを奪われたら一気に3人が置いていかれてしまいます。
NG例②:サポートに入る選手が二人ともボール保持者の斜め後ろに入ってしまう
サポートの2人が両方ともボール保持者の後方にポジションをとってしまうと、ボールを前に運ぶ手段がドリブルのみになってしまいます。
「②ボール保持者の斜め前と斜め後ろにサポートに入った選手は縦に同列に並ぶ」のNG例
※赤の選手は相手チームの選手です。
NG例①:サポートの選手がボール保持者の真正面に入ってしまう
ボール保持者にとっても、斜め後方でサポートしている選手にとっても、前方へのパスコースがなくなってしまいます。
NG例②:サポートの選手がボール保持者の真後ろに入ってしまう
ボール保持者にとって、真後ろにサポートしている選手は見つけるのが難しく、パスも出しづらいです。
また、ボール保持者の真後ろでサポートすると、パスを受けた後に前方にボールを送るのが難しくなってしまいます。
NG例③:ボール保持者のサポートに入った二人の選手が対角線上に並んでしまう
ボール保持者のサポートに入った二人の選手が対角線上に並んでしまうと、斜め後方でパスを受けた後に前方にボールを送るのが難しくなってしまいます。
「簡易5レーン理論」の利点
「簡易5レーン理論」の利点
①本家「5レーン理論」より覚えやすい
②自分や味方がどのレーンにいるのかわからなくてもポジショニングできる
③守備のリスク管理ができる
④3人目の動きが出てくる
⑤横パスをカットされることがなくなる
⑥オフザボール時にも常にポジショニングに注意を払う負担をなくすことができる
⑦11人制の試合でなくても利用可能
①本家「5レーン理論」より覚えやすい
よりルールが少なく、難しい言葉も使われていないため、人によっては小学校低学年でも覚えられます。
また、シンプルなルールのため初心者コーチでも「できている・いない」の判断がしやすく、明確な基準を持って指導にあたることができます。
②自分や味方がどのレーンにいるのかわからなくてもポジショニングできる
本家「5レーン理論」を実行するためには、自分や味方がどこのレーンにいるのか・いないのかを認知する能力がとても重要です。
しかし、才能に恵まれておりなおかつ練習熱心な子どもでも、その判断を正確にし続けるというのは至難の業です。
5レーン理論を実行するうえで何が難しいか選手に尋ねると、「実際のピッチにはレーンを分ける線が引かれていないこと」という答えが返ってくることが多いです。
ともすれば笑い話のように聞こえてしまうかもしれませんが、選手にとってレーンの判断は本当に難しいので、レーンが分からなくてもバランスをとり続けることができるのは「簡易5レーン理論」の大きな強みと言えます。
③守備のリスク管理ができる
この理論を用いることによってビルドアップがよりスムーズにおこなえるようになりますが、利点はそこだけに留まりません。
育成年代においてはパスだけでなくドリブルの能力も向上させていく必要がありますが、ボール保持者の後方に常に味方がいるルールになっているため、奪われても即座に大ピンチに陥ることが減り、思い切ってドリブルや仕掛けのプレーを挑める状況を作り続けることができます。
④3人目の動きが出てくる
どこにポジショニングすべきかが明確なため、ボールが動いている間にサポートの動きをする「3人目の動き」が出やすくなります。
これにより攻撃はダイナミックになり、相手チームにとってはマークする相手を捕まえづらくなります。
⑤横パスをカットされることがなくなる
横パスをカットされると複数の選手が置いて行かれて大きなピンチを招いてしまうため、絶対に避けたいところです。
この理論のルールに沿ってポジショニングをすると横パスがなくなるため、攻撃のみならず守備においても大きなプラスとなります。
⑥オフザボール時にも常にポジショニングに注意を払う負担をなくすことができる
本家「5レーン理論」は、オフザボール時のポジショニングにも常に意識を向けてバランスをとり続けることで成立しています。
大変難しいことですが、だからこそそれを身に着けたチームの攻撃は流れるように美しく、見るものを魅了します。
オフザボールの局面にも意識を向けられる方が良い選手であることに間違いはありませんが、小学生や中学生にそこを求めてしまうと、見なければならないものが多すぎて動けなくなってしまうことも出てきます。
「簡易5レーン理論」ではその負担を軽減し、「ボールホルダーとそのサポートに入る選手」および「サポートに入る選手とサポートに入る選手」という関係のみで成り立たせることが可能なため、頭の中を整理してプレーできます。
そこから先は、レベルが上がってきたら徐々に求めていけばよいでしょう。
⑦11人制の試合でなくても利用可能
「チーム全員がミスなくポジショニングしないと成り立たない」という戦術ではなく、少人数でグループを構成できるプレー方法なので、11人制の試合でなくても活用することができます。
8人制の試合はもちろん、4対4のミニゲームでも利用可能ですので、ぜひ役立ててください。
サポートする選手の役割
「簡易5レーン理論」のルールや利点が理解できたところで、サポートする選手の役割についても整理しておきましょう。
これはとても重要です。
ここが本当に重要です。
これが選手に伝わらないと、ただ型にはめるだけになってしまい、将来的に活用できる戦術知識ではなくなってしまいます。
ボール保持者の斜め前でサポートする選手の役割
①前を向ける状況であれば、パスやドリブルでボールを前に運ぶ
②前を向けない状況であれば、ボールを受けて味方につなぐための起点となる
ボール保持者の斜め後ろでサポートする選手の役割
①ボールを受けて前方にボールを入れる(正面にいる味方へのパスだけでなく、裏へのボールなど他の選手へのパスも含む)
②ボールを受けてサイドチェンジをする
③ボール保持者がプレッシャーを受けている時の緊急時の避難先となる
④味方がボールを失った時のリスクマネジメント
役割は他にもありますが、最低限ここは押さえておきましょう。
まとめ
この記事のまとめ
- 「簡易5レーン理論」とは、本家「5レーン理論」のルールをより単純にしつつ、効果も出るようにアレンジされたもの
- 「簡易5レーン理論」のルール
①ボール保持者の斜め前と斜め後ろにサポートに入る
②ボール保持者の斜め前と斜め後ろにサポートに入った選手は縦に同列に並ぶ
- 「簡易5レーン理論」の利点
①本家「5レーン理論」より覚えやすい
②自分や味方がどのレーンにいるのかわからなくてもポジショニングできる
③守備のリスク管理ができる
④3人目の動きが出てくる
⑤横パスをカットされることがなくなる
⑥オフザボール時にも常にポジショニングに注意を払う負担をなくすことができる
⑦11人制の試合でなくても利用可能
- サポートする選手の役割
ボール保持者の斜め前でサポートする選手の役割:
①前を向ける状況であれば、パスやドリブルでボールを前に運ぶ
②前を向けない状況であれば、ボールを受けて味方につなぐための起点となる
ボール保持者の斜め後ろでサポートする選手の役割:
①ボールを受けて前方にボールを入れる(正面にいる味方へのパスだけでなく、裏へのボールなど他の選手へのパスも含む)
②ボールを受けてサイドチェンジをする
③ボール保持者がプレッシャーを受けている時の緊急時の避難先となる
④味方がボールを失った時のリスクマネジメント
最後までお読みいただきありがとうございます。
ドリブルしてボールを失うのが悪いのではなく、ドリブルしか前に進む方法を知らないこと・ボールを持ったところから一直線に進む以外に相手ゴールに向かう方法を知らないというのが改善すべきポイントです。
色々な方法を知ってもらいながらも、最終的にどのプレーを選択するかを決めるのは選手自身です。
当然ながら選択を誤ることもありますが、その経験こそが成長に不可欠なので、暖かく見守り指導してあげましょう。
いつかドリブル・パス・ポジションチェンジなどたくさんのアイディアを織り交ぜた素晴らしいゴールシーンを見せてくれることを信じながら。
こちらの記事もおすすめです
-
【90分で劇的改善】ポゼッション・ビルドアップに必要な「良いポジショニング」とは?【3つの改善ポイント】
続きを見る
-
【ゴールキックも劇的改善】偽サイドバックより簡単な3バック↔4バックの可変システムによるビルドアップの方法【8人制サッカーでも使える】
続きを見る
-
【指導者・コーチ向けおすすめサッカーDVD】U-13世代の選手向けDVD「知のサッカー第2巻」(サッカーサービス社)
続きを見る